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東京高等裁判所 昭和51年(ネ)145号 判決

控訴人

岩本孝治

右訴訟代理人

益本安造

被控訴人

更生会社冨士電子工業株式会社

管財人

上野久徳

右訴訟代理人

小野孝徳

外一名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し金一二五万円およびこれに対する昭和四九年一二月一三日から支払いずみまで年六分の金員を支払え。訴訟費用は第一、二審も被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張および証拠関係は、次のとおり付加するほか、原判決の事実摘示のとおりであるので、これを引用する。

一、当審における控訴代理人の新たな主張

仮に本件監査報酬が会社更生法二〇八条八号にいう共益債権に該当しないとしても、控訴人と更生会社との間の本件監査契約は同法一〇四条の二の継続的給付を目的とする双務契約であり、その性格は、請負契約の一種にあたるものである。従つて、本件報酬債権は、控訴人が監査業務を了え監査報告書を作成し、監査証明を付した財務計算に関する書類を交付するのとひきかえに発生するものであるところ、控訴人は本件会社更生の申立後で更生手続開始前である昭和四九年六月一五日に保全管理人上野久徳に監査報告書を提出し、同保金管理人は同年七月二日に右監査報告を添付して大蔵大臣に有価証券報告書を提出しているのであるから、本件報酬債権は同法一〇四条の二第二項にいう共益債権にあたる。

二、当審における被控訴代理人の新たな主張

控訴人は本件監査報酬は会社更生法一〇四条の二の継続的給付を目的とする双務契約にもとづく債権であり、共益債権になると主張するが、監査契約は毎会計年度ごとに新たな契約が締結されるものであり、仮に同一の公認会計士が毎期継続して監査契約を締結したとしても、監査契約は各契約ごとに別個独立のものであり、以前の監査報酬は支払わないから次の期の監査を拒絶することができるというようなものではなく、法律の予定する継続給付を目的とする契約(電気、水道に関する供給契約書)とは全く異なる。

理由

控訴人の本件報酬債権は、更生手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権で、会社更生法一〇二条にいう更生債権であり、右更生債権に該当するものは、その支出が更生会社のためにやむをえないものであつても、同法二〇八条八号にいう共益債権には当たらないと解すべきである。その理由は、原判決の理由説示のとおりであるので、これを引用する。

なお、控訴人は、本件報酬債権は会社更生法一〇四条の二にいう「継続的給付を目的とする双務契約」に基づく債権であるから共益債権になると主張する。しかし、同条の適用の対象となる「継続的給付を目的とする双務契約」とは、継続的債権関係を内容とする双務契約のうち、当事者の一方が一定期間または期限の定めなく回帰的・反覆的に種類をもつて定められた給付をなす義務を負い、他方が各給付ごとにあるいは一定の期間を区切つてその期間内になされた給付を一括してそれに対する対価を支払う義務を負う契約をいうのであり、そして、反覆的・回帰的給付を内容とする契約であつても、契約の性質または当事者の意思により、個々の給付がすべて履行されなければ契約をした目的を達しえないような給付に可分性のない場合には、右「継続的給付を目的とする双務契約」にはあたらないと解すべきである。前記認定のとおり本件監査契約は一種の請負契約ではあるが、更生会社の第三六期(昭和四八年三月一日から昭和四九年二月二八日まで)の監査を目的とするものであつて、反覆的・回帰的な給付を目的とするものではなくまたその給付に可分性がないので、右「継続的給付を目的とする双務契約」とはいえず、従つて本件報酬債権は右共益債権には当たらないものである。

そうすると、本件報酬債権が共益債権であることを前提としている本訴請求は、失当である。

原判決は相当であり、本件控訴は理由がないのでこれを棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(小山俊彦 山田二郎 石井彦壽)

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